【2026年秋】Google Cloud最新技術動向:AIエージェント時代の基盤を読み解く

はじめに

2026年のGoogle Cloudは「AIエージェントを業務に組み込み、安全に運用する」ための基盤づくりに大きく舵を切っています。生成AIのPoC(概念実証)を終えた企業にとって、次の課題は「本番運用」と「全社展開」です。

本記事では、ここ数か月で発表・提供開始されたGoogle Cloudの主要アップデートを、エンジニアの視点で整理します。対象読者は、Google Cloud上で生成AIやデータ活用を検討している情報システム部門・開発チームの方です。

最新動向1:「Gemini エージェント」と新フロンティアモデル Gemini 4 Argon

2026年10月の最大のトピックは、Geminiが「モデル名」から「エージェント名」へと変わったことです。10月8日(日本時間9日未明)の Gemini at Work 2026 で、Google CloudのThomas Kurian CEOは「仕事のための単一・汎用エージェント」として Gemini エージェント を発表しました。

Gemini エージェントの設計思想

公式発表では、次のような設計原則が示されています。

  • 統合エージェント:チャットでの質問応答、目標を与えた自律実行、コード生成を一つのインターフェースで扱います。スケジュール実行やイベント起点の実行にも対応します。
  • 永続実行:クラウド上で動くため、PCを閉じた後も数時間〜数日かかる仕事を続けます。デバイスをまたいで記憶とコンテキストが共有されます。
  • マルチエージェント:タスクごとに固有IDを持つサブエージェントを動的に生成し、並列・逐次で協調させます。チームの一員として振る舞う「コワーカーエージェント」は専用のメールアドレスやストレージを持ちます。
  • モデル選択の分離:「エージェントはGemini、その下のモデルは別の選択肢」という考え方です。現時点でGeminiファミリーとAnthropicのClaudeモデルを使い分け、タスクに合ったモデルで処理します。

記憶は4種類に整理されています。作業中のセッション記憶、文書や対話から構築する意味記憶、仕事の進め方を覚える手続き記憶、過去の行動のエピソード記憶です。エンジニアの視点では、エージェントの状態管理をプラットフォーム側が担う点が大きな変化です。

Google Workspace内でも、Gmail・Docs・Sheets・Calendarなどにインラインで組み込まれます。業界特化版としては金融(Financial Services)と法務(Legal)がプレビュー中で、行政・医療・小売が今後予定されています。

Gemini 4 Argon の一般提供

10月13日には、新しいフロンティアモデル Gemini 4 Argon がGoogle Cloudで利用可能になりました。長く複数ステップにわたるタスクで文脈を保つこと、計算や引用の正確さが特徴とされています。

項目 内容
モデルID gemini-4-argon
利用先 Gemini Enterprise(Web・デスクトップ・モバイル)、Gemini Enterprise Agent Platform API、Google AI Studio、Google Antigravity
導入価格(2026年11月30日まで) 入力 $2 / 100万トークン、出力 $10 / 100万トークン(キャッシュ入力は95%引き)
標準価格(12月以降) 入力 $4 / 100万トークン、出力 $20 / 100万トークン
リージョン global・us・eu(データ所在地とML処理の保証は us・eu)

セキュリティ面では、間接的プロンプトインジェクションへの耐性が強化されています。Googleによると、Gray Swanのベンチマークで15回の適応的攻撃に対する成功率を0.7%に抑えました。メールやWebページを読むエージェント用途では重要な改善です。

なお、Gemini Enterpriseアプリでは管理者のトグルが初期状態でオフで、2026年10月27日から既定でオンに切り替わります(リリースノート)。日本リージョンでの国内データ所在地を要件とする企業は、対応リージョンを事前に確認してください。

最新動向2:Gemini Enterprise Agent Platform によるエージェント開発・運用

自社独自のエージェントを作る開発者にとっての中心は、2026年4月のGoogle Cloud Nextで Vertex AI から改称・統合された Gemini Enterprise Agent Platform です。既存のVertex AIのワークロードやSDKは破壊的変更なしで移行できると説明されています。

公式ドキュメントでは、プラットフォームを Build・Scale・Govern・Optimize の4つの柱で整理しています。

Gemini Enterprise Agent Platformの4つの柱(Build・Scale・Govern・Optimize)と主要コンポーネント
Agent Platform の構成:4つの柱と主要コンポーネント

開発(Build)で作ったエージェントを、マネージドな実行環境(Scale)で動かし、ID・登録簿・ゲートウェイ(Govern)で統制し、観測と評価(Optimize)で改善する流れです。

開発パスは3種類

開発パス 特徴 向いているケース
Agent Studio ノーコード/ローコードのビジュアル環境 業務部門主導の試作、素早いPoC
Managed Agents API 設定ベースのREST API。フルマネージドのサンドボックス内で自律実行 コードを書かずに本格的な自律エージェントを動かしたい場合
Agent Development Kit(ADK) オープンソースのコードファーストなフレームワーク マルチエージェント構成や細かな制御が必要な本番システム

ADKで作ったエージェントは Agent Runtime(旧 Agent Engine)にデプロイします。セッション管理や長期記憶の Memory Bank もマネージドで提供されます。LangChain・LangGraph・LlamaIndexなど他フレームワークのエージェントも同じランタイムで動かせます。

ガバナンスの3点セット:Identity・Registry・Gateway

本番運用で特に重要なのがGovernの領域です。

  • Agent Identity:エージェントごとにSPIFFE形式の固有IDを付与します。共有サービスアカウントの代わりに、エージェント単位でIAM権限を割り当てられます。
  • Agent Registry:デプロイしたエージェントやMCPサーバーを自動登録し、バージョンや機能を一元管理します。
  • Agent Gateway:エージェントのすべての通信を仲介するマネージドなネットワーク部品です。ツールや他エージェントへの呼び出しにアクセス制御を適用し、Model Armorによる検査も行えます。

相互運用性:A2A・MCP・A2UI

エージェント同士をつなぐ標準プロトコルも整ってきました。Agent2Agent(A2A)プロトコルでベンダーの異なるエージェントが連携し、MCPでツールやデータに接続します。Gemini Enterpriseでは、2026年8月にA2A/A2UIエージェントの登録機能が一般提供となりました。ADKで作ったエージェントをGemini Enterpriseに取り込み、社員向けに配布する流れが標準化されつつあります。

最新動向3:データ基盤とインフラ — 「データを動かさないAI」へ

エージェントの回答品質は、参照するデータの質で決まります。Gemini at Work 2026では、データ領域で次の3つの仕組みが強調されました。

  • Knowledge Catalog:「純利益率」などの業務用語の定義を一度登録すれば、すべてのエージェントが同じ定義で回答します。Bloomberg Mediaはこれによりデータエージェントの SQL 精度を63%向上させたと紹介されています。
  • Smart Storage:PDFや画像、音声などの非構造化データを、置き場所を変えずにその場でメタデータ付与します。
  • Borderless Lakehouse:Amazon S3やAzure Data Lakeを可変のエグレス料金なしでクエリでき、Apache Icebergテーブルを他社カタログと連携できます。

Gemini Enterprise から業務DBを直接クエリ

2026年10月2日には、Gemini EnterpriseのData Cloudコネクタに「フェデレーテッドクエリモード」がプレビュー提供されました。BigQuery・AlloyDB・Cloud SQL・Spannerのデータを、データストアへコピーせずにMCP経由でその場で照会します。照会には各ユーザー自身の認証情報が使われるため、既存の権限設計がそのまま生きます。

BigQuery の生成AI関数にトークン上限が設定可能に

BigQueryでは AI.GENERATE・AI.CLASSIFY・AI.IF・AI.SCORE などの関数で、SQLから直接LLMを呼べます。便利な反面、数百万行に適用すると想定外のトークン課金が発生しがちでした。

2026年10月14日に紹介されたトークンベースのコスト管理(GA)では、プロジェクト単位とユーザー単位で1日あたりの入力・出力トークン上限を設定できます。出力上限には推論(thinking)トークンも含まれ、全リージョンの合算で管理されます。上限を下げる変更は承認不要で即時反映されます。

インフラ:TPU 8i

これらを支える基盤として、Googleは最新の TPU 8i システムが前世代比で価格性能を80%改善したと発表しています。長時間・多段階のエージェント処理を、現実的なコストで回すための土台です。

実践:ADKでエージェントを作り、Agent Runtimeにデプロイする

ここでは公式クイックスタートをベースに、最小構成のエージェントを本番ランタイムへ載せる流れを紹介します。例として、社内の在庫照会を想定したツールを持つエージェントを作ります。

1. 事前準備

  1. Google Cloudプロジェクトで課金を有効化し、Agent PlatformとCloud StorageのAPIを有効にします。
  2. 実行ユーザーに roles/aiplatform.user と roles/storage.admin を付与します。
  3. SDKをインストールし、認証します。
pip install --upgrade --quiet "google-cloud-aiplatform[agent_engines,adk]>=1.112"
gcloud auth application-default login

2. ツールとエージェントを定義する

ADKでは、Pythonの関数をそのままツールとして渡せます。docstringがモデルへのツール説明になるため、日本語でも具体的に書くのがコツです。

import vertexai
from google.adk.agents import Agent
from vertexai import agent_engines

client = vertexai.Client(project="YOUR_PROJECT_ID", location="asia-northeast1")

def get_stock(product_code: str) -> dict:
    """商品コードを受け取り、現在の在庫数と倉庫名を返す。"""
    # 実運用では BigQuery や社内APIに接続する
    sample = {"A-100": {"stock": 42, "warehouse": "東京第1倉庫"}}
    return sample.get(product_code, {"stock": 0, "warehouse": "不明"})

agent = Agent(
    model="gemini-3.5-flash",
    name="stock_agent",
    instruction="あなたは在庫照会アシスタントです。必ずツールで確認してから回答してください。",
    tools=[get_stock],
)

app = agent_engines.AdkApp(agent=agent)

3. ローカルでテストする

async for event in app.async_stream_query(
    user_id="test-user",
    message="A-100 の在庫はいくつありますか?",
):
    print(event)

4. Agent Runtime にデプロイする

デプロイ時に identity_type で Agent Identity を指定すると、エージェント専用のIDで動作します。共有サービスアカウントを使わずに済むため、権限を最小化しやすくなります。

from vertexai import types

remote_agent = client.agent_engines.create(
    agent=app,
    config={
        "requirements": ["google-cloud-aiplatform[agent_engines,adk]"],
        "staging_bucket": "gs://YOUR_STAGING_BUCKET",
        "identity_type": types.IdentityType.AGENT_IDENTITY,
    },
)

デプロイ後は、Agent Registryへの自動登録、Cloud Traceでの実行経路の可視化が利用できます。Gemini Enterpriseに登録すれば、社員がチャット画面から呼び出せるようになります。

なお、リージョンやモデルの対応状況は更新が頻繁です。実際の構築前に、利用するリージョンでモデルが提供されているかを必ず確認してください。

5. おまけ:BigQueryで生成AIのコストを事前に見積もる

BigQueryの生成AI関数を大量データに適用する前には、AI.COUNT_TOKENS で入力トークン量を把握しておくと安心です。この関数自体は生成呼び出しを行わないため課金対象外です。

-- 問い合わせ本文を分類する前に、入力トークン量の下限を見積もる
SELECT
  SUM(
    AI.COUNT_TOKENS(
      CONCAT('次の問い合わせを「請求」「技術」「その他」に分類してください: ', body),
      endpoint => 'gemini-3.1-flash-lite'
    ).result
  ) AS total_input_tokens
FROM `my_project.support.inquiries`;

見積もった値をもとに、「IAMと管理 → 割り当てとシステム上限」でBigQuery APIのAIトークン上限を設定します。まずユーザー単位の上限から設定するのがGoogleの推奨です。

導入時の注意点:セキュリティ・コスト・ガバナンス

エージェントは「答えるAI」から「行動するAI」に変わりつつあります。便利さと引き換えに、設計段階で決めておくべき論点が増えました。Kurian CEOは、エージェント運用の成否を分ける問いとして次の4つを挙げています。

  1. そのエージェントは誰で、どんなIDを持つのか
  2. 何をしてよいのか(権限)
  3. 何をしたのか、どこで確認できるのか(監査)
  4. 絶対に触れてはならないものは何か

セキュリティ

  • エージェント専用IDと最小権限:Agent Identityを使い、エージェントごとに必要最小限のIAM権限を付与します。
  • 通信の一元管理:Agent Gatewayを経由させ、許可したツールやMCPサーバーにだけ接続させます。
  • プロンプトインジェクション対策:メールやWebなど外部コンテンツを読むエージェントには、Model Armorによる入出力検査を組み合わせます。
  • 機密データの保護:Gemini Enterpriseでは、Sensitive Data Protectionのコンテンツポリシーで機密情報の表示やアップロードをブロックできます。

コスト

  • モデルの使い分け:すべてを最上位モデルで処理する必要はありません。単純な処理はFlash系、難しい推論はArgonと役割を分けます。
  • 上限の設定:Cloud Billingの支出上限(spend cap)、Gemini Enterpriseの超過利用設定、BigQueryのトークン上限を組み合わせます。
  • 導入価格の期限:Gemini 4 Argonの導入価格は2026年11月30日までです。長期の予算計画には標準価格で試算してください。

ガバナンスとデータ所在地

日本国内でのデータ保管・処理を要件とする企業は、利用するモデルが東京リージョン(asia-northeast1)の国内データ所在地に対応しているかを確認してください。例えばGemini 2.5 Proは、2026年10月20日にGemini Enterpriseアプリの日本国内リージョンから削除される予定です。モデルの世代交代が速いため、特定モデルへの依存を避ける設計が重要です。

まとめ

2026年秋のGoogle Cloudは、「モデルを選ぶ」時代から「エージェントに仕事を任せ、安全に管理する」時代へ移りました。ポイントは次の3つです。

  • Geminiはエージェントになった:Gemini エージェントが質問応答から自律実行、コード生成までを一つの窓口で担い、その下で最適なモデルを使い分けます。
  • 作る・動かす・守るが一つの基盤に:Gemini Enterprise Agent Platformで、ADKによる開発からAgent Runtimeでの運用、Identity・Registry・Gatewayによる統制までを一貫して扱えます。
  • データは動かさず、コストは先に縛る:フェデレーテッドクエリやKnowledge Catalogで既存データを活かし、トークン上限や支出上限で予算を守ります。

技術の進化は速く、数か月単位でモデルや機能名が変わります。だからこそ、特定のモデルに依存しない設計と、ガバナンスを最初から組み込む姿勢が重要です。

エニシアスのAI活用支援サービス

株式会社エニシアスは、Google Cloudパートナーとして、Gemini Enterprise・Gemini Notebook Enterprise・Gemini Enterprise Agent Platformを中心とした生成AIの活用を支援しています。

  • 導入代行:環境構築から初期設定、データ連携まで当社が代行します。
  • 導入支援:お客様のチームと伴走し、PoCから本番運用までを支援します。
  • QAサポート:導入後の疑問や設定変更の相談にお応えします。

「Gemini エージェントを自社でどう使えるか知りたい」「ADKで独自エージェントを作りたい」といったご相談も歓迎です。お気軽にお問い合わせください。

参考資料